人生で初めての家出

誰でも一度は家出をしようと思ったことがあると言えば言い過ぎか?私は1度の家出未遂と1度の中途半端な家出経験がある。30代にしたプチ家出は、結果、誰も探しに来てくれなかった。当時の飼い犬が行方不明になった時のほうが、家族が真剣に探していたような気がする。要は、自分の存在は犬以下である。結果論から言うと、家出はするものではない。

初めての家出の試みは16歳の時。自分の人生の中で悲しい思い出の1つである。『どうせ、独りぼっちなら、どこにいても変わらないだろう。だったら、こんな家は出て行こう』というアホな高校生が考えそうな非合理的で情緒的な動機である。家族なのに、親は自分たちの事ばかり忙しく、子供に家族らしいことをしてあげられない。お金はあるが、心を温めてくれる愛情はない。だだっ広い家では、より一層、疎外感と孤独感が、チクリと来る。

そもそも家出に持っていく荷物の選択から間違っていた。自分の日常品の他に、犬と文鳥を一緒に連れて行こうと試みたのだ。つぶらな瞳の文ちゃんに、雑種のケンちゃん。リュックを背負い、右手には、ケンちゃんのリード、左手には、文ちゃんのケージ。かなりテクニカルな所持品であった。家のゲートの前に到着し、ジャンパーのポケットに入れてあったゲート開閉用リモコンをガサガサと探していると、文ちゃんのキャリーケージのハンドルがとれ、ケージが地面に落下。ああっー、やばい!落下の衝撃で、文ちゃんのケージが開いてしまったのだ。

「文ちゃん、大丈夫か?!」焦りながら救助の手を指しのべたその瞬間、ケンちゃんが、パクっと、文ちゃんを飲み込んでしまった。状況の深刻さを全く理解していないケンちゃん。呆然と立ち尽くす私。自分の目の前で起きたペットの共食い惨劇という結果に終わった私の初家出は、ショックのあまり未遂で終わった。