ジジイと呼ばれる大家⑤ジジイのおんぼろトラック

高級住宅地に遠慮するようにパーキングしてあるオンボロトラックは、ジジイがお父さんから受け継いだガラクタである。ボロボロなのに何故か未だ動く。あまりのボロさに写真を撮って行く人も少なくはない。あればあったで恥ずかしいが、無ければ無いで不便な時もある。

ジジイのオンボロトラックには、ルールとパーソナリティーがある。

ルール1: 決して掃除と洗車をしてはいけない。洗車をするとイイ感じに生えたフロントガラスの緑コケが流されてしまう。ジジイは、これを『禅』と呼ぶ。30年間洗車をしていないらしい。

ルール2: オンボロトラックの悪口を言ってはいけない。悪口を言うとエンジンがかからなくなるらしい。

ルール3: オンボロトラックで高級住宅地を運転してはいけない。トラックが、場違いな場所に行くと、恥ずかしくなってエンジンが止まってしまうらしい。

事実、バンクーバーで一番高級なエリアにあるおしゃれなガーデンストアーにオーダーをしていたプラントをピックアップに行った日、ジジイのトラックは高級住宅地でエンストを起こし停車した。。。笑

サイドミラーはお決まりのガムテープで固定され、ワイパーは、ボロボロ。窓は、きっちりと閉まらないので雨が降れば雨漏りがする。あおりの部分は、ヒンジがさびていて開かなく、荷台の床部分は、場所によっては、鉄が腐っていて穴が開いている。それでも、廃車にされない。

この前、ジジイがトラックを定期検査に持って行ったとき、トラックのあまりのボロさに、定期健診費用を安くしてもらったと、満面の笑みを浮かべていた。ジジイよ、お前は、隠れ億万長者なのに、自分より所得の低い人に同情されて、挙句の果てにサービス料金を割引してもらったにもかかわらずチップさえも払ってこなかったのか?チープなジジイだ。

定期健診を無事に乗り切ったオンボロトラックには、きっと、お父さんとの楽しい思い出がいっぱい詰まっているのだろう。今では、ジジイがお父さんの年齢になっちゃったけど、トラックは、頑張って走り続ける。何かしらあると、ジジイにアップグレードを薦めるのが私の口癖だか、トラックだけには、アップグレードをしろとは言えない。愛着ってこういう気持ちなんだ。