ジジイと呼ばれる大家⑱心温まる出来事

ジジイのテナントは、合計で3人。うち二人(もちろん一人は私である)は、煮ても焼いても食えない『強い女達』なのである。この女達、年齢も性格も似ているのである。よって、意見は食い違うことが多くあっても心は通じている。ストーカー事件が起きたときにも、一方の女(以下Sとする)は、ゴルフクラブをベットの横に、一方の女(これ私)は、居合刀をベットの横に置いて寝ていた。お互いに戦う気100%なのである。笑 

ストーカー事件の時の会話もこんな感じ:

私:「たぶん、ブロンド狙ってるのよ。だいたいホラー映画で血まみれはブロンドよ」

S:「アジア・フェッチの可能性だってあるわよ」

私:「正当防衛と過剰防衛の違いを心得て戦う事!」

S:「もちろん、ベットから手を伸ばして、直ぐにグリップが握れるようにゴルフクラブも置いてあるから、大丈夫!」

ある晩、Sが、ジジイを含め全員にグループメッセージを送ってきた。

「コールドカットミート(サラミやプロシュート)とチーズが山のようにあるから今晩は、ジジイのキッチンで集合」

ということで、強引にジジイの自宅におしかけその晩の6時からテーブルに所狭しとおつまみを並べて飲み会が始まった。ワインが3本ぐらい空になったぐらいから、Sのお決まりトークである『オンラインデート失敗談』が始まった。どれもこれも散々な結末。しかも、誰一人、Sとのデート代を払わず、割り勘でデートが終了・・・・ご愁傷様である。

しびれを切らした私は、Sに「あなたのオンラインのプロファイル見せてよ」と言って、Sのオンラインデートのプロファイルを分析することを提案したのだ。

Sは、誇らしげに「これ私のプロファイル~」と皆に自分のプロファイルを見せた。

Sのプロファイルを見たジジイは、露骨に「・・・・・・・・」という表情をしている。

私は、即、「このプロファイルじゃ、誰も寄って来ないわよ」とダメ出しをする。

すかさず、ジジイが、「そうだ、良いデート相手をGETするには、作戦が必要だ!」と、Sに苦し紛れの打診をした。ジジイの言う作戦とは、遠回しに言うと、男の眼から見てSのプロファイルは、確実に男を引き寄せるものではないという意味である。

Sは、私たちをじろっと睨むと「Oh, for fuck’s sake #%%^* @#^&$&$#@!!~!#@*&」と、「まじかよ~」と言った後は、英語のクラスでは絶対に教えない単語や引用などが、次から次へと出て来るではないか?!

私は、ただ横で、Sを見ながら、英語という言語の奥深さに感心した。

「いいの、これで。これが私なんだから!」と、Sは、開き直る。

私は、「そのプロファイルの君を両手広げて受け止めてくれる男こそ、運命の人である」と、話をまとめる。

そんなこんなで、集会もそろそろお開きになる頃、Sが、真面目な顔をして、「ジジイ、いつも本当にありがとう。ジジイが、激安家賃で私たちを支えてくれているので、私は、路頭に迷わずに済んだわ。あの時、私の仕事の契約が一瞬で吹っ飛んじゃった時、頭の中、真っ白になったのよ」

コロナが始める前、Sは、イベント・コーディネーターとして州政府のイベント等を手掛けていた。2020年3月11日にWHOによってCOVID-19のパンデミックが宣言され、Sのコントラクトは壊滅したのだ。

強烈に強い女の眼から涙があふれる。

ジジイが照れ隠しをしながら、「心配するな」と、Sに優しい言葉をかけている。

Sは、続けて、「ジジイのようにバカみたいなお人好しの大家さんがいて私は本当に幸せだわ」と感謝する。

そのとおりだ。女のお一人様人生、老後の不安材料を消す現実的な『頼り』は、『キャリアと資金力と良い人たちとの関わり(人間関係)』なのである。私たちから必要最小限の家賃しかとらないジジイのおかげで私たちは、老後の不安材料を少しでも減らして日々を生きることができるのだ。きっと、ジジイがこの世を去って、私たちがおばあちゃんになっても、時々、ジジイを思い出しながら感謝するのであろう。私たちこそ、お前に恩返しをしないといけないので、ジジイよ、これからも元気で長生きしておくれ。