トマトには、ハラペーニョという運命の相手がいる

「自分に厳しすぎるのよ。だから、幸せが見つかりにくいのよ」

「幸せの形には、パーフェクトなんて無いわ。未完成でも、2人の間で、パーフェクトって思えれば、それで十分」

そう言う彼女は、3年間ずーっと、死にたいと思い続けてきた。

3年前にパートナーが、他界して以来、ミーディアム(霊界と現世に生きる人の仲介役)やらカウンセリングなど、考えられる手段を全て試して立ち直ったサバイバーである。最愛の人が、いなくなってしまう。言葉なんかでは表現できない寂しさの続いた日々。

ワインとアガバレスを飲みながらの昔話。「私たち、若い頃はよく働いたよね。ある意味、戦場の同士だったよね~ 笑」私たちの20&30代は、過酷な仕事量、ノンストップな海外出張、直属の上司を除いてはサイコパスに近い上司たち、精神状態崩壊の同僚たち、とにかく面白い職場だった。

アルコール度数が高いお酒は、なぜか飲める私。

彼女は、アガバレスを飲む私をちらりとみて、「ビールもワインも飲めないのに」と、笑う。久々に見る彼女の笑顔に、心の底から、ほっとするひと時。もう死ぬなんて言わないでね。

そのとき、彼女は、ぼそっと「私、一度、本気で死のうとしたの。人生の本当のロー(ドン底)モーメントが、来ちゃって。そのモーメントというのがね、オートロックで自分を閉めだしちゃった日の出来事なんだけど、カギを開けに来てくれたF***ing 鍵屋が、ドアに電気ノコギリ入れた瞬間に、私、壊れちゃったんだよね。。。。」自分の玄関のドアと同時に彼女の精神状態も崩壊してしまったのだ。

ほろ酔い気分が、一瞬に吹っ飛んだ。「なんで、電話してこなかったの?そんなA**ホール野郎なんて、ぶん殴ってやったのに」私の回答のいたる単語にFワードがつく。

彼女は、「だって、死にたい時って、人に会いたくないでしょ」と、ベランダを見て言った。

「3階から飛び降りたって、死に損なうだけよ。せっかくお金かけて直した鼻が台無しよ」と、優しい言葉もかけられない自分が非常に情けない。『何があっても生きてほしい。貴方は、その価値のある女性だ』と、本音を言えばいいのに。。。

少し沈黙。「でもさっ、今では、こうやって、立ち直れたし、ボーイフレンドもできたし、マイホームも買ったし、新しい仕事も見つかったし、本当によかった!」と言う私の眼がしらが、ちょっと熱くなった。この3年間、いろいろな事が彼女に起きたけれど、彼女は、生きた。強くなった。美しくなった。優しくなった。そんな彼女がもっと好きになった。

「あなたは、どうなの最近?」と、トピックが私に方向転換する。

「私?、小鼻の整形費用の見積もりとコンサルテーション待ってるんだけど、まだ来ない」

彼女の3年間とは、比べ物にならないくだらない近況報告。すまん、これが、私の最近の注目トピックである。

「小鼻が小さくなると、セックスする時の酸素吸入量が、少なくなるよね」と言って、鼻から一杯に空気を吸ってみせる。

それを見た彼女は、「セックスが、もっと良くなるんじゃない?」と、笑った。

「それは、楽しみ~」私も笑う。

すると、彼女が、「私の国ではね、“どんなトマトにも、たった1つのハラペーニョという運命の相手がいる”っていうの。だから、あなたにも“たった1つのハラペーニョ”を見つかるように応援してるわ」と言って、笑った。女友達同士の友情のありがたさをここから感じられるひと時のお話。