ドラマな女

林真理子でも久しぶりに読もおっかな~と、彼女の本を手に取った時、学生時代のお騒がせ女Xの事をはたと思いだした。Xを一言で表現すると、林真〇子を3倍ほどピンボケにした顔に薄毛。「私の夢は、国連で文化交流アンバサダーとして働き。。。」が、Xのクラス初日での自己紹介だった。立派な自己紹介だ。授業に来るには、ちょっとフォーマルすぎるかな?というスーツ姿に、スカーフをクラシ―に巻いたX。彼女の自身に満ちた態度が目を引いた。同じ日本人という事もあり、学校で会えば、会話をする機会もそれなりに増えていった。

Xは次第に、日本人留学生に囲まれる存在になり、いつも会話の中心に彼女がいた。とある放課後、Xは、私に「〇〇ちゃんは、日本人と交流はしないの?」と聞かれたので、「そんなことはございませんよ」と、遠慮しながら、日本人お姉さまの午後のお茶会に参加した。有名大学から交換留学に来ているお姉さまたちの目には、Xは、世界を股にかけるキャリア・ウーマン的な存在になっているようだった。その日の私たちの会話のトピックは、Xの自慢する貴族階級の彼。フレンチ・バロンだ。自分の頭の中では、Xの彼は、変態バロン様。ワイルドに妄想が頭の中を駆け巡った。そんな私の楽しい妄想も次の瞬間、大間違いだと気付かされた。Xの手帳から出てきた彼の写真は、長身、ブロンド、青い目、無茶苦茶イケメンのバロン。ガンダムのシャア・アズナブルじゃない~。ステキ~!ボーイフレンドがいない留学生女子達にとって、バロン様は、棚から絶対落ちてこないボタ餅を眺めているような気持ちであったであろう。笑

Xは、彼の所有するお城で過ごした休暇話を自慢げに始めた。高級ワインを嗜みながら、バルコニーからワイナリーを一望、しかも隣にいるのは、イケメンのバロン。いいなぁ~。そんなこんなで、Xにまつわる噂は、後を絶たなかった。フランスでスーパー・キャリアウーマンだとか、ロンドンの住まいは、高級住宅地のXXだとか、趣味は、ミシュランスターのレストラン巡りだとか。。。Xによると、Xの母は、某大物政治家の愛人なので、京都の高級住宅地で、母とひっそり暮らしていたという。愛人の子供をフランスに留学させる資金を出すのは、大物政治家なら朝飯前のことだろう、誰もがそう感じたと思う。Xの話のスケールが大きければ大きいほど、Xを取り巻く留学生達は、Xを高く評価した。私の独断と偏見だけど、成功しているブスの話って何故か説得力あるのよね。

まあ、私にとって、Xは、『ドラマな女』として放課後のエンターテイメントであった。

あれは、夏休みが始まる前のこと、Xが、いつものように大学のカフェでくつろいでいたので、挨拶もかねて立ち止まった。「〇〇ちゃんは、夏休みは、どのようにお過ごしなさるのかしら?」X特有の遠回しのマウンティングが始まる気配。どんな私の夏休みプランを離したところで、Xの夏休みのほうが、ゴージャスなのである。当時のロンドン大学の学生は、夏休みに長期旅行に出かけるか里帰りをする。なぜなら、当時の大学は、夏休みの間、一部の学生寮を観光客に貸し出していたのだ。よって、ほとんどの学生は寮から蹴り出されたのだ。幸いにも寮生活をしていなかった私は、夏休みの仮の宿を探す問題はなかった。

夏休みが始まって間もなく、Xを自宅ランチに招待したことがある。その時にXがこう言った「私、物が多すぎて、困っているの。〇〇ちゃん、靴、お洋服、掃除機、ケトル、アイロン、ヘアードライヤー、スーツケースとかいろいろあるんだけど、欲しい?」

せっかくのオファーであったが、丁寧にお断りをしたら、「そう、残念。他にもお洋服とか、沢山あるから、気が変わったら、お声をかけてね」と、Xが言った。

それから3か月後、新学期も始まり、アルバイト先の大学事務局にお土産を持って行った時の事。事務局が、日本人の留学生でザワついていた。Xのお友達と、見たことのない顔たちが数人、暗い顔をしていたのだ。そこに留学生担当事務局のおじさんがやって来て、「おまえも被害にあったのか?」といきなり聞いてきた。「被害?」私に最も縁の遠い言葉の1つが『被害』である。おじさんの調査によると、Xは、日本に里帰りをする留学生達の荷物を預かると申し出を出て、そのままトンズラしたのだ。夏休みを終えてロンドンに戻って来た留学生たちは、預けた荷物を全て盗難にあい、被害を訴え出ていたところに私が出くわしたというわけ。

その時、はっと、Xのオファーを思い出した。「そういえば、Xさんがね、アイロンとか、いろいろくれるって言ってた」

「それ、私の~」半泣きのお姉さんが、叫んだ。

「洋服とかもくれるって言ってたけど、もらわなかった」と、私が答えると、すかさず、お姉さんが「〇〇ちゃんが、もらってくれてたら、私の物が帰ってきたのに~」と、がっくりした。Xの被害者は、1人や2人では、止まらなかったと後で学校から聞いた。

あの薄毛ピンボケ顔が、ここまで人を信じさせることができるというXのスキルに関心した。Xの話はここで終わらない。期待を裏切らないのがXだ。被害にあった生徒を気にかけて事務局のおっさんが、Xの実家に連絡をして事情を説明したのだ。おっさんが言うには、Xの母親は、京都に住む大物政治家の愛人でもなく、両親がそろっていたそうだ。しかも、両親は一般人。彼女の両親によると、Xは長い間、音信不通なのでXに連絡がついたら両親に連絡をしてくれと逆にお願いをされたという結末。

ということは、シャア・アズナブル級のフレンチ・バロンも作り話だったのかな?残念。

(´□`) シャアー様、やっぱりあなたのような方が存在するのは漫画だけなのね・・・