サザビーズ・オークション・ハウスでのインターン経験
私が学生の頃、Sotheby’s (サザビーズ)オークションハウスでインターンをしていたことがある。現在は、ロンドンのMayfairにオークションハウスがあるが、当時は、確かハマースミス駅の近くのモダンな建物にオークションハウスがあった。自分が日本人であることから、所属先は、担当社員が約5人ほどの日本アンティーク部門。当時のサザビーズが主に扱っていた日本アンティークは、浮世絵、根付、刀、鎧などだ。90年代のアンティークを含んだ日本文化は、世界でもそれとなく高評価を受けていた。北野武監督や黒沢清監督もその例である。
サザビーズオークションハウスの面接にパスした私は、自分なりに『インテリ風おしゃれ』な服装をして、インターンDay①に挑んだのを覚えている。初日は、サザビーズツアー。私のスーパバイザ―が、オークションハウスの中を案内してくれた。Fine Art部門、家具、コンテンポラリー、ワイン、時計、宝石、有名絵画など、まさに宝の宝庫であった。世界の金持ちが行き着く先は、ここなのか?と一人で納得していたのを覚えている。しかも、働いている人たちは、ほぼ全員がお金持ちの家柄の方ばかり・・・・別世界。
インターンDay②は、自分のお仕事のリストをいただき、さあ、本格的にお仕事のスタートだ。お客様より送られてくるオークション商品をカタログにのせる準備である。過去に似たような商品が幾らで取引をされていたかを調べるのも私の仕事。よって、過去のセールスのアーカイブから調査するのだ。20年以上も昔は、アーカイブがデータ化されていなかったので、郵便局の仕分け棚のようなアルファベット順の引き出しからオークション商品の情報(手書きのカード)を検索するのだ。重複されている情報は1つにまとめ、整理整頓も心がけた。オフィスの皆が喜んでくれた。
自分の係の仕事に慣れてくると、時々、サザビーズの倉庫に足を運び、オークションに出品する商品のクオリティー検査にも出かけた。と言っても、商品が激しく損傷していないかのチェックだけである。サザビーズの倉庫は、珍しい物だらけで、無茶苦茶楽しかった。アンティークは、丁寧に取り扱わないと、いつどのパーツがポロリと落ちるか分からない。ある日、印籠を手に取ってホコリをソフトブラシで取り除いている最中に、くしゃみをしてしまった。その時、金の装飾の1部が、ポロリとはげたのだ・・・・・・汗。ヤバっ!やってしまった・・・・・即、速足でオフィスに戻り、事故を報告し謝罪をしたら、あっさりと「保険あるから大丈夫」と言われてホッとしたのを覚えている。
それ以来、倉庫に行くたびに、ポーターのクリスチャンから、「今度は何を破壊しに来たのだ?」と、イジられ続けた。サザビーズ倉庫で地味に商品を運び続ける人の良いおっちゃん、実家は、フランスのワイナリーのボンボンであった。クリスマスには、実家から輸出用の木箱サイズでワインがサザビーズ日本部門に届いたそうだ。規模が違う・・・・笑
インターンとは言えど、自分のベストを尽くす。良いアイデアがあれば、打診し、チームが少しでも仕事をしやすくなるように努力する。3週間も経つ頃には、職員から「社員のようにガッツリ働くインターン」と笑われるようになり、違う部署の人から、「お宅のインターン、うちの部署にもWelcomeよ」と誉め言葉もいただくようになった。
カタログ製作が無事に終わると、いよいよオークション。そして、オークションが無事に終わると次のプロジェクトが始まる。ある日、私のボスが、ニコニコしながら「〇〇コレクションが届いたらから、倉庫に見に行こう!」と、いつもとは違う倉庫に私を招待してくれた。倉庫に到着すると、テーブルの上には、製図サイズの箱が置かれていた。布手袋をして箱を開けるとそこには、浮世絵が盛りだくさん。「これ、総額2000万円」と、ボスが言う。ええっ、この箱だけで・・・・・「ぼっ、ボス。私のようなペーペーには、プレッシャーが大きすぎます・・・」と言うと、ボスは、「〇〇の仕事は、これじゃなくて、あっちの倉庫に山になっている浮世絵♡」と言って、別の倉庫を指さした。
えっ?
ちょっとほっとしながら、○○コレクションを拝んだのち、私の担当ボックスを見に行くと・・・・
何と?!
無造作に山積みになったサイズがバラバラの浮世絵。
一体、何が起きているのだ・・・・非常に嫌な予感。
「あなたのタスクは、①本物の浮世絵(木版作品のオリジナル) または ②復刻版 の違いを見抜いて!」と、満面の笑みで私の新タスクを発表した。
まじーっ。汗
それから数週間、私は、山のような『復刻版暴き』タスクの任命を受け、ただただひたすら出品商品とにらみ合ったのであった。