ジジイと呼ばれる大家④ヒイラギの木

ジジイの家のバックアリーは、不法投棄の『聖地』と言ってもよいほど、ガラクタが大巡礼していた。集まるガラクタは、カーペット、ペンキ缶、ドア、ベビー用品、キッチン用、コンクリートの塊などなど、高級住宅地とは思えないほど、不法投棄の場所にターゲットにされていたのだ。古着がたんまりと入っているポリ袋も捨てられていたこともあり、脱いだそのままの形のパンストが袋に入っていたのには、笑えた。ある時は、バケツ半分ほどの量のピスタチオの殻が捨てられていた。この事件は、明らかに不法投棄のネタにしては、私的制裁すぎる。ピスタチオの殻に関しては、不法投棄ではなく、ジジイへの個人的な嫌味か逆恨みと判断した。

裏通りをきれいに掃除していても不法時が絶えない日々。業を煮やした私は、これを張ってみてはどうか?と、自家製張り紙をジジイに提案したが、『人道的ではない』という理由で却下された。眠れない夜は完全犯罪を考えるのが趣味の私が、本気で考えた『脅しの張り紙』は、老人には、きつかったらしい。よし、それでは、プランBで解決しよう。

プランBは、いたってシンプルな解決策。それは、バックヤードのフェンスを越えて茂るヒイラギの木を切り倒すことで、ブラインドスポットを無くす作戦だ。幾度もブラインドスポット説と不法投棄の関係性を説明したにも関わらず、同意しないジジイ。ジジイよ、合理的な説明を受け入れられないお前は、ただの頑固ジジイだ。こうなったら、非合理的ないちゃもんを付けるしかない。という事で、ヒイラギの木にまつわる不吉な迷信を探す努力を試みた。ヒイラギの木を切り倒すための非合理的な理由を『Holly Tree (ヒイラギの木)bad (悪い)luck(運)』とGoogle で検索をかけた。驚いたことに、ヒイラギの木を切ることがBad luckらしい!! 切っちゃいけないという意見がほぼ100%なのである。ヒイラギの木にまつわる検索結果はこんな感じだった。

①ヒイラギの木は家に幸福をもたらす

反論:聖なる木が、不法投棄の原因を招いている=不幸

②ヒイラギの木は魔除けになる

反論:ジジイにとっては、テナントの私が『魔物』なので、ヒイラギの木は、魔除けの役割を果たしていない

③ヒイラギの木は男性には、Good luck (幸運)である

反論:全く根拠がわからない。ジジイの運もだいぶ尽きてきたので、あまり気にしなくてもよい=ジジイの余生は悪運で十分

④ヒイラギの木を切ると妖精が怒る

反論:妖精を気にするのは、未熟な子供とスピリチュアルでいっちゃってる大人だけ

ヒイラギの木にまつわる不吉な迷信の裏が取れない。1万人に一人ぐらいは『ヒイラギ不吉説』を唱えてもいいじゃないか?なぜ、いない。。。これでは、ジジイを納得させる理由が見つからん。苦し紛れに思いついたのが、自作の荒唐無稽『ヒイラギ不吉説』。

「私の東ヨーロッパのお友達が、ジジイの庭のヒイラギの木を見て不吉って言ってた」と、性懲りもなくヒイラギの木伐採計画を訴え続けた。東ヨーロッパの友達は、勿論、存在などしない。イマジナリー・フレンドだ。そんなわけで、1か月も経たないうちに再び不法投棄事件が発生した。「そういえば、中国人の友達もヒイラギの木が植えてある方角が良くないなんて言ってたなぁ~。風水って当たるらしいよ」不法投棄のゴミ処分の手伝いをしながら、ジジイにアピールした。

プランBの実行に移ってから2か月。ようやく、ジジイが、首を縦に振った。許可さえ下りれば、ヒイラギの木に対して独裁を実行するのみ。早速、週末の夕食会に来たゲストを証人として巻き込み、ジジイに『ヒイラギの木伐採許可』に同意をさせた。同意書には、酔っぱらったジジイのサインを皮切りに、ゲストの子供のサインやら、ジジイの仲間たちのサインが証人として6つもされているという、いたずらにしか見えない同意書に仕上がってしまった。

その翌日の日曜日、100キロも離れた場所から元カレを呼び、電動ノコギリでヒイラギの木を切り倒したのでした。受け口までは、しっかり切り込みを入れたのに、追い口の高さを間違えて切るという、やっぱりカナダ人らしいオチに、ヒイラギの木は全く逆方向に倒れ、ジジイのおんぼろフェンスは、ヒイラギの木と共に破壊されてしまった。あーあ、またやっちゃった。。。その後、不法投棄は、パタッと止まった。めでたしめでたし。