ジジイと呼ばれる大家②年中無休の工事現場

ジジイの家は、年中無休の工事現場。別の言い方をすると、何かしら壊れ続けるボロ家。雨が降れば、雨漏り。どこかしらの水道管が毎年破裂。昨年まで、強風が吹けば、屋根の一部がふっ飛んでいた。笑

6年前の私が入居した頃、ジジイは、1階レベル(建物北側半分)をDIY改築していたのだ。もともと建築家のジジイは、設計は朝飯前。しかし、実際の現場は、ブループリント上で描けるように一筋縄ではいかないものだったらしい。ジジイによると、私が入居する2年ほど前から基礎工事の床掘作業をしていたらしい。怖いもの見たさに現場を見学に行くと、産業革命以前の工事道具で作業をしているではないか?電気ハンマードリルなど便利な道具など一切なく、つるはしでコンクリートの床を壊し、床掘り作業をしていたのだ。ジジイは、「電気道具を使うと音がうるさいから、ご近所さんにバレてしまうだろう。ハンドツールで、コツコツと静かに作業をするんだ」と、まるで刑務所から脱獄計画を立てている囚人のような言い訳だ。

ビジネスを軌道に乗せるまでは、趣味の陶芸も一時休止にした私の決意とは裏腹に、当時の私は、今ほど仕事に追われていなった。暇だったのだ。涙。家でボーっとするのも自身のプライドが傷つくので、ジジイの改築工事のお手伝いを『見習い』として買って出ることにした。自分の仕事が終わると、ジャージに着替えて、ジジイのお手伝いをするのが、3か月ぐらい続いた。基礎も無事に掘り下げ、生コンクリートを打つ作業は、いい加減そのもの。このゆがんだ基礎が後に悪夢に変わることになるなんて『見習い』の私には予測もつかなかった。

基礎が完成し、窓を取り付ける作業が終わると、工事現場がやっと温かくなった。あの時の何とも言えない安堵感は、今でも覚えている。原始人から農耕民族にアップグレードした気分だった。農耕生活を始めちゃったおかげで、今日の世界的規模の問題である『人類の貧富の差』ができちゃったんだけど、寒いのは嫌だ。コンクリートの床も打って、窓も付けて、壁の断熱材も入れた。もう引き返せない改築作業だ。人類の進化もこんな感じにステップ、ステップを踏みながら『引き返せないから前進あるのみ』という流れに任せてきたのだろう。後戻りは不可能。後に『独裁者』と呼ばれる『見習い』は、次第に現場監督の指揮をとるようになっていった。笑