ジジイと呼ばれる大家⑪『見逃してやってくれよ悪人じゃないことはわかるだろう』ジジイの自家製グラッパ

ジジイのイタリア古郷では、エスプレッソの中に砂糖を入れて、あえてかき混ぜないでエスプレッソを飲む。カップの底に溶け切らないで残った砂糖にグラッパを注いで飲む方法をCorrection=『最終調整』と言いい、ジジイのエスプレッソは、強烈なカフェインとアルコールのショットなのだ。

そのグラッパが、ジジイの危険趣味である。家も自分で改装するぐらいだから、ワインやグラッパも自分で作る。グラッパとは、ポマース(発酵したグレープの搾りかす)を蒸留して作るブランデーの一種(蒸留酒)だ。ジジイのグラッパは、原酒の状態で約70~80度。コロナで、ハンドサニタイザーが不足した時には、グラッパで消毒すれば、大丈夫だとグラッパの多様性を主張していた。笑

毎年夏から秋にかけて、ジジイの物置から蒸留器を引っ張り出す。この自宅用グラッパ蒸留器は、イタリアでわざわざカスタムオーダーをしたらしい。いったいどうやってカナダの空港のカスタム(税関)を通過したのか?と聞いたら、ジジイは、「税関には、スープ作りの機材だ!と、答えた」と、バレバレの嘘を申告した事をかなり誇らしげに思っている様子。呆れたものだ。スープというものは、そもそもシンプルな鍋という物を使うのであって、誰が、この蒸留器をスープ作りに使うと思うのか!カナダの国境警備隊もなめられたものだ。

ということで、グラッパ作りの本題に入る。まず、発酵したグレープの搾りかすを圧力鍋に入れる。ガスに火をつけて、圧力鍋から沸々と湧くような音がするのを待つ。第一段階は、少々時間がかかる。

待っている間、ジジイは、訳の分からないイタリア風の歌を歌う。私は、さねよしいさ子のボラボラのマルコじいさんを歌う。ジジイのためにあるようなこの歌。『見逃してやってくれよ悪人じゃないことはわかるだろう』という歌詞は、まさにジジイの生き様。

圧力鍋 の中から湧いてきている音が聞こえたら、火加減の調整。弱火に切り替える。強火のままだと蒸留の速度が速すぎてしまうので、没になるという。冷却器を通ってアルコールが、ポツリポツリと落ちてくる。この蒸留酒を根気よく集める作業が、自家製グラッパ作り。

秋晴れの空の下、ワインのいい匂いと、バゲット、チーズ、サラミやプロシュート。ボロ家に無茶苦茶な自家製グラッパだが、なかなか乙なものである。