ジジイと呼ばれる大家⑯それじゃ、地獄で!

私の1日は、自分の起きたい時間に起きて1日が始まる。『早起きして朝は、ゆっくりと』など以ての外。『早起きは三文の徳』という言葉は私の中に存在しない。会社に勤めていた頃、始業時間に合わせて朝早く起きるのが嫌で、10時出勤を認めさせるために業績を上げて交渉をしたぐらいだ。

自営業になって一番のメリットは、時間が自由に使えることだ。今では目覚まし時計を全く利用しないし、朝は適当に気の向くままに過ごす。ボリュームのある朝食は一切取らない主義*の私だが、ジジイの『カフェ朝ごはん』のお誘いには付き合うのだ。私がこの家に入居して以来、週1回は必ず、朝9:30頃にテキストメッセージが届く。

ジジイ:カフェ朝ごはん行くか?

私:OK

よって、私の家賃の約5%は、朝ごはんという形で返金される。ジジイの趣味は、カフェ巡り。イタリアンなので、コーヒーは、味だけだは物足りなく『雰囲気』も必要なのだ。よって、フットワークの軽いジジイは、バンクーバー中のオシャレなカフェを網羅しているのだ。顔に似合わずトレンドはさりげなくチェックしている。笑 

今日のカフェは、車で20分ほど走ったEastサイドのカフェ。手作りドーナツが美味しいカフェだ。このカフェは、美味しいドーナツの他にべらぼうな値段でイタリア食材を売っていることでも知られている。ツナの缶詰に$7である。クリスマス時期にはパネトーネ(小さな箱)を$36で売っていたっけ・・・・・ありえん。

暖房が近い席を確保して、私は、ドーナッツをほおばりながら、ぼったくり商品を指さし「Rip off(ぼったくり)」と言うと、お隣に座っていたお客さんが、ちらっと私の方を見た。ジジイは、私の毒舌に慣れっこなので、ジジイも「11回もぼったくられたら、やばいよな?」と、訳の分からないことを言った。

んっ、11回?

「11回もぼったくられて気がつかないヤツの脳みそは、〇〇〇じゃ~」と、私が、すかさず言い返す。私の利用した言葉が、爆弾発言(メディアだと放送禁止用語)だったので、またもやお隣の席の男性が、ちらっと私の方を見た。

そんなジジイと私の会話が弾む中、カフェに入って来た若いカップルが、ぼったくり商品を購入したのだ!

「今の若者は、値段を疑わずに買っていくもんなんだなぁ~」と、ジジイが感心している。

「ジジイさ、今の若者の受けている教育ってさ、比べちゃいけないのよ。人種、性別、財産、学力、容姿、肌の色、ステータス、いろんなこと比べると面倒なことになるでしょ?その影響で値段やサービスも比べないようになっちゃったんじゃない?」と、ジジイに解説した。冗談で言ったつもりなので科学的・社会学的根拠は全くない。

「そうかー、俺なんかしょっちゅう値段比べてるぞ」と、ジジイが言う。

「何言ってんの?自分、よくぼったくられるじゃない?」と、私にダメ出しされるジジイ。

ジジイ「・・・・・・」

ジジイが、何かを急に思い出したように「独裁者は、ミケランジェロに興味があるか?」と聞いてきた。

「自分の家の中にフレスコ画でも描く気になったのか?」と、私に聞かれると、ジジイは、システィーナ礼拝堂に描かれたミケランジェロの絵画を巨大パネルで展示するエキシビジョン「Michelangelo’s Sistine Chapel」がバンクーバー・コンベンションセンターで開催されているので、一緒に見に行かないかと誘ってきた。

誰に誘われようが、展示会へのお誘いは全てYESの私。

「ところで、独裁者は、どちら側だ?右か?左側か?」ジジイが、にやりと笑う。

ジジイめ、私を試しておるな?!

「もちろん、文句なしの『右』だ。フル装備で地獄に落ちてやる!」と返事をすると、お隣の席の男性は驚いた顔で私を見た。

たぶん、ジジイは、『最後の審判』のことを言っているのだ。左側のグループは天国行、右側のグループは、地獄行である。

「ジジイさ、お前も文句なしの『右』グループだ。わかってる?」と、私が言う。

「しかも、復讐の怒りに燃えたアライグマに袋叩きにされるんじゃない?」

私は、続けて、「宗教的観点からみて『良い人って』むっちゃ、つまんなくない?そんな人たちと天国で生活したら、つまらなくて死んでしまうわよ。Oops、あの世では、私は、とうに死んでるか。ははー。(笑)」

「ところでジジイさ、地獄でも家賃あげないでよ!」

朝から、地獄行の話で盛り上がるジジイと私であった。

今日の教訓:地獄仲間は、自分が死ぬ前にこの世で地獄仲間を見つけるものである。それこそ『腐れ縁』

*朝は、水分、ナッツ、ちょっとの量のフルーツで十分なのだ。しかも、胃袋にがっつり食料を入れないほうが、仕事の集中力は上がる